InfiniBand ネットワークおよび RDMA ネットワークの設定
高速ネットワークプロトコルと RDMA ハードウェアの設定と管理
概要
多様性を受け入れるオープンソースの強化
Red Hat では、コード、ドキュメント、Web プロパティーにおける配慮に欠ける用語の置き換えに取り組んでいます。まずは、マスター (master)、スレーブ (slave)、ブラックリスト (blacklist)、ホワイトリスト (whitelist) の 4 つの用語の置き換えから始めます。この取り組みは膨大な作業を要するため、今後の複数のリリースで段階的に用語の置き換えを実施して参ります。詳細は、Red Hat CTO である Chris Wright のメッセージ を参照してください。
Red Hat ドキュメントへのフィードバック (英語のみ)
Red Hat ドキュメントに関するご意見やご感想をお寄せください。また、改善点があればお知らせください。
Jira からのフィードバック送信 (アカウントが必要)
- Jira の Web サイトにログインします。
- 上部のナビゲーションバーで Create をクリックします。
- Summary フィールドにわかりやすいタイトルを入力します。
- Description フィールドに、ドキュメントの改善に関するご意見を記入してください。ドキュメントの該当部分へのリンクも追加してください。
- ダイアログの下部にある Create をクリックします。
第1章 InfiniBand および RDMA について
InfiniBand は、次の 2 つの異なるものを指します。
- InfiniBand ネットワーク用の物理リンク層プロトコル
- Remote Direct Memory Access (RDMA) テクノロジーの実装である InfiniBand Verbs API
RDMA は、オペレーティングシステム、キャッシュ、またはストレージを使用せずに、2 台のコンピューターのメインメモリー間のアクセスを提供します。RDMA を使用すると、データは、高スループット、低レイテンシー、低 CPU 使用率で転送されます。
通常の IP データ転送では、あるマシンのアプリケーションが別のマシンのアプリケーションにデータを送信すると、受信側で以下のアクションが起こります。
- カーネルがデータを受信する必要がある。
- カーネルは、データがアプリケーションに属するかどうかを判別する必要がある。
- カーネルは、アプリケーションを起動する。
- カーネルは、アプリケーションがカーネルへのシステムコールを実行するまで待機する。
- アプリケーションは、データをカーネルの内部メモリー領域から、アプリケーションが提供するバッファーにコピーする。
このプロセスでは、ホストアダプターが直接メモリーアクセス (DMA) などを使用する場合には、ほとんどのネットワークトラフィックが、システムのメインメモリーに少なくとも 2 回コピーされます。さらに、コンピューターはいくつかのコンテキストスイッチを実行して、カーネルとアプリケーションを切り替えます。これらのコンテキストスイッチは、他のタスクの速度を低下させる一方で、高いトラフィックレートで高い CPU 負荷を引き起こす可能性があります。
従来の IP 通信とは異なり、RDMA 通信は通信プロセスでのカーネルの介入を回避します。これにより、CPU のオーバーヘッドが軽減されます。RDMA プロトコルは、パケットがネットワークに入った後、どのアプリケーションがそれを受信し、そのアプリケーションのメモリー空間のどこに格納するかをホストアダプターが決定することを可能にします。処理のためにパケットをカーネルに送信してユーザーアプリケーションのメモリーにコピーする代わりに、ホストアダプターは、パケットの内容をアプリケーションバッファーに直接配置します。このプロセスには、別個の API である InfiniBand Verbs API が必要であり、アプリケーションは RDMA を使用するために InfiniBand Verbs API を実装する必要があります。
Red Hat Enterprise Linux は、InfiniBand ハードウェアと InfiniBand Verbs API の両方をサポートしています。さらに、InfiniBand 以外のハードウェアで InfiniBand Verbs API を使用するための次のテクノロジーをサポートしています。
- Internet Wide Area RDMA Protocol (iWARP): IP ネットワーク上で RDMA を実装するネットワークプロトコル
- RDMA over Converged Ethernet (RoCE)、別名 InfiniBand over Ethernet (IBoE): RDMA over Ethernet ネットワークを実装するネットワークプロトコル
関連情報
第2章 Soft-iWARP の設定
Remote Direct Memory Access (RDMA) は、パフォーマンス向上と補助プログラミングインターフェイスのために、iWARP、Soft-iWARP など、いくつかのライブラリーとプロトコルをイーサネット上で使用します。
2.1. iWARP と Soft-iWARP の概要
Remote Direct Memory Access (RDMA) は、イーサネットを介したインターネットワイドエリア RDMA プロトコル (iWARP) を使用して、TCP 経由で集中型の低レイテンシーのデータ送信を行います。iWARP は、標準のイーサネットスイッチと TCP/IP スタックを使用して、IP サブネット間でトラフィックをルーティングします。これにより、既存のインフラストラクチャーを効率的に使用するための柔軟性が提供されます。Red Hat Enterprise Linux では、複数のプロバイダーがハードウェアネットワークインターフェイスカードに iWARP を実装しています。たとえば、cxgb4
、irdma
、qedr
などです。
Soft-iWARP (siw) は、Linux 用のソフトウェアベースの iWARP カーネルドライバーおよびユーザーライブラリーです。これはソフトウェアベースの RDMA デバイスであり、ネットワークインターフェイスカードに接続すると、RDMA ハードウェアにプログラミングインターフェイスを提供します。Soft-iWARP は、RDMA 環境をテストおよび検証する簡単な方法を提供します。
2.2. Soft-iWARP の設定
Soft-iWARP (siw) は、Linux TCP/IP ネットワークスタックを介して Internet Wide-area RDMA Protocol (iWARP) Remote Direct Memory Access (RDMA) トランスポートを実装します。これにより、標準のイーサネットアダプターを備えたシステムが、iWARP アダプター、または Soft-iWARP ドライバーを実行している別のシステム、または iWARP をサポートするハードウェアを備えたホストと相互運用できるようになります。
Soft-iWARP 機能は、テクノロジープレビューとしてのみ提供されます。テクノロジープレビュー機能は、Red Hat 製品サポートのサービスレベルアグリーメント (SLA) ではサポートされておらず、機能的に完全ではない可能性があるため、Red Hat では実稼働環境での使用を推奨していません。テクノロジープレビュー機能では、最新の製品機能をいち早く提供します。これにより、お客様は開発段階で機能をテストし、フィードバックを提供できます。
テクノロジープレビュー機能のサポート範囲については、Red Hat カスタマーポータルの テクノロジープレビュー機能のサポート範囲 を参照してください。
Soft-iWARP を設定する際には、スクリプトで次の手順を使用して、システムの起動時に自動的にスクリプトを実行できます。
前提条件
- イーサネットアダプターが搭載されている。
手順
iproute
パッケージ、libibverbs
パッケージ、libibverbs-utils
パッケージ、およびinfiniband-diags
パッケージをインストールします。#
dnf
install iproute libibverbs libibverbs-utils infiniband-diagsRDMA リンクを表示します。
# rdma link show
siw
カーネルモジュールをロードします。# modprobe siw
enp0s1
インターフェイスを使用する、siw0
という名前の新しいsiw
デバイスを追加します。# rdma link add siw0 type siw netdev enp0s1
検証
すべての RDMA リンクの状態を表示します。
# rdma link show link siw0/1 state ACTIVE physical_state LINK_UP netdev enp0s1
利用可能な RDMA デバイスをリスト表示します。
# ibv_devices device node GUID ------ ---------------- siw0 0250b6fffea19d61
ibv_devinfo
ユーティリティーを使用して、詳細なステータスを表示することができます。# ibv_devinfo siw0 hca_id: siw0 transport: iWARP (1) fw_ver: 0.0.0 node_guid: 0250:b6ff:fea1:9d61 sys_image_guid: 0250:b6ff:fea1:9d61 vendor_id: 0x626d74 vendor_part_id: 1 hw_ver: 0x0 phys_port_cnt: 1 port: 1 state: PORT_ACTIVE (4) max_mtu: 1024 (3) active_mtu: 1024 (3) sm_lid: 0 port_lid: 0 port_lmc: 0x00 link_layer: Ethernet
第3章 RoCE の設定
Remote Direct Memory Access (RDMA) は、直接メモリーアクセス (DMA) のリモート実行を提供します。RDMA over Converged Ethernet (RoCE) は、イーサネットネットワーク上で RDMA を利用するネットワークプロトコルです。RoCE の設定には特定のハードウェアが必要です。ハードウェアベンダーには Mellanox、Broadcom、QLogic などがあります。
3.1. RoCE プロトコルバージョンの概要
RoCE は、イーサネット上で Remote Direct Memory Access (RDMA) を有効にするネットワークプロトコルです。
以下は、RoCE のさまざまなバージョンです。
- RoCE v1
-
RoCE バージョン 1 プロトコルは、イーサタイプ
0x8915
を持つイーサネットリンク層プロトコルです。同じイーサネットブロードキャストドメイン内にある 2 つのホスト間の通信を可能にします。 - RoCE v2
-
RoCE バージョン 2 プロトコルは、UDP over IPv4 または UDP over IPv6 プロトコルの上位に存在します。RoCE v2 の場合、UDP の宛先ポート番号は
4791
です。
RDMA_CM は、データを転送するためにクライアントとサーバーとの間に信頼できる接続を確立します。RDMA_CM は、接続を確立するために RDMA トランスポートに依存しないインターフェイスを提供します。通信は、特定の RDMA デバイスとメッセージベースのデータ転送を使用します。
クライアントで RoCE v2 を使用し、サーバーで RoCE v1 を使用するなど、異なるバージョンの使用はサポートされていません。このような場合は、サーバーとクライアントの両方が RoCE v1 で通信するように設定してください。
RoCE v1 はデータリンク層 (Layer 2) で動作し、同じネットワーク内の 2 台のマシンの通信のみをサポートします。デフォルトでは、RoCE v2 を使用できます。これは、ネットワーク層 (Layer 3) で機能します。RoCE v2 は、複数のイーサネットとの接続を提供するパケットルーティングをサポートします。
3.2. デフォルトの RoCE バージョンを一時的に変更する
クライアントで RoCE v2 プロトコルを使用し、サーバーで RoCE v1 を使用することはサポートされていません。サーバーのハードウェアが RoCE v1 のみをサポートしている場合は、サーバーと通信できるようにクライアントを RoCE v1 用に設定します。たとえば、RoCE v1 のみをサポートする Mellanox ConnectX-5 InfiniBand デバイス用には、mlx5_0
ドライバーを使用するクライアントを設定できます。
ここで説明する変更は、ホストを再起動するまで有効です。
前提条件
- クライアントが、RoCE v2 プロトコルに対応した InfiniBand デバイスを使用している。
- サーバーが、RoCEv1 のみをサポートする InfiniBand デバイスを使用している。
手順
/sys/kernel/config/rdma_cm/mlx5_0/
ディレクトリーを作成します。# mkdir /sys/kernel/config/rdma_cm/mlx5_0/
デフォルトの RoCE モードを表示します。
# cat /sys/kernel/config/rdma_cm/mlx5_0/ports/1/default_roce_mode RoCE v2
デフォルトの RoCE モードをバージョン 1 に変更します。
# echo "IB/RoCE v1" > /sys/kernel/config/rdma_cm/mlx5_0/ports/1/default_roce_mode
第4章 コア RDMA サブシステムの設定
rdma
サービス設定は、InfiniBand、iWARP、RoCE などのネットワークプロトコルと通信標準を管理します。
4.1. systemd リンクファイルを使用して IPoIB デバイスの名前を変更する
デフォルトでは、カーネルは Internet Protocol over InfiniBand (IPoIB) デバイスに、ib0
、ib1
などの名前を付けます。競合を回避するには、systemd
リンクファイルを作成して、mlx4_ib0
など、永続的でわかりやすい名前を作成します。
前提条件
- InfiniBand デバイスがインストールされている。
手順
デバイス
ib0
のハードウェアアドレスを表示します。# ip addr show ib0 7: ib0: <BROADCAST,MULTICAST,UP,LOWER_UP> mtu 65520 qdisc fq_codel state UP group default qlen 256 link/infiniband 80:00:0a:28:fe:80:00:00:00:00:00:00:f4:52:14:03:00:7b:e1:b1 brd 00:ff:ff:ff:ff:12:40:1b:ff:ff:00:00:00:00:00:00:ff:ff:ff:ff altname ibp7s0 altname ibs2 inet 172.31.0.181/24 brd 172.31.0.255 scope global dynamic noprefixroute ib0 valid_lft 2899sec preferred_lft 2899sec inet6 fe80::f652:1403:7b:e1b1/64 scope link noprefixroute valid_lft forever preferred_lft forever
80:00:0a:28:fe:80:00:00:00:00:00:00:f4:52:14:03:00:7b:e1:b1
という MAC アドレスを持つインターフェイスにmlx4_ib0
という名前を付けるには、/etc/systemd/network/70-custom-ifnames.link
ファイルを次の内容で作成します。[Match] MACAddress=80:00:0a:28:fe:80:00:00:00:00:00:00:f4:52:14:03:00:7b:e1:b1 [Link] Name=mlx4_ib0
このリンクファイルによって MAC アドレスが照合され、ネットワークインターフェイスの名前が
Name
パラメーターに設定された名前に変更されます。
検証
ホストを再起動します。
# reboot
リンクファイルで指定した MAC アドレスを持つデバイスが
mlx4_ib0
に割り当てられていることを確認します。# ip addr show mlx4_ib0 7: mlx4_ib0: <BROADCAST,MULTICAST,UP,LOWER_UP> mtu 65520 qdisc fq_codel state UP group default qlen 256 link/infiniband 80:00:0a:28:fe:80:00:00:00:00:00:00:f4:52:14:03:00:7b:e1:b1 brd 00:ff:ff:ff:ff:12:40:1b:ff:ff:00:00:00:00:00:00:ff:ff:ff:ff altname ibp7s0 altname ibs2 inet 172.31.0.181/24 brd 172.31.0.255 scope global dynamic noprefixroute mlx4_ib0 valid_lft 2899sec preferred_lft 2899sec inet6 fe80::f652:1403:7b:e1b1/64 scope link noprefixroute valid_lft forever preferred_lft forever
関連情報
-
systemd.link(5)
man ページ
4.2. システムでユーザーがピニング (固定) できるメモリーの量を増やす
Remote Direct Memory Access (RDMA) の操作には、物理メモリーのピニングが必要です。これにより、カーネルがスワップ領域にメモリーを書き込むことができなくなります。ユーザーがメモリーを過剰に固定すると、システムのメモリーが不足し、カーネルがプロセスを終了してより多くのメモリーを解放することがあります。したがって、メモリーのピニングは特権が必要な操作です。
root 以外のユーザーが大規模な RDMA アプリケーションを実行する必要がある場合は、プライマリーメモリー内のページを常にピニングしておくために、メモリーの量を増やす必要があります。
手順
root
ユーザーで、/etc/security/limits.conf
ファイルを以下の内容で作成します。@rdma soft memlock unlimited @rdma hard memlock unlimited
検証
/etc/security/limits.conf
ファイルの編集後、rdma
グループのメンバーとしてログインします。Red Hat Enterprise Linux は、ユーザーのログイン時に、更新された
ulimit
の設定を適用することに注意してください。ulimit -l
コマンドを使用して制限を表示します。$ ulimit -l unlimited
コマンドが
unlimited
を返す場合、ユーザーはメモリーのピニングを無制限に行うことができます。
関連情報
-
limits.conf(5)
man ページ
4.3. NFS サーバーで NFS over RDMA を有効にする
Remote Direct Memory Access (RDMA) は、クライアントシステムがストレージサーバーのメモリーから自身のメモリーにデータを直接転送できるようにするプロトコルです。これにより、ストレージのスループットが向上し、サーバーとクライアント間のデータ転送の遅延が減少し、両側の CPU 負荷が軽減されます。NFS サーバーとクライアントの両方が RDMA 経由で接続されている場合、クライアントは NFS over RDMA (NFSoRDMA) を使用してエクスポートされたディレクトリーをマウントできます。
前提条件
- NFS サービスが実行および設定されている。
- InfiniBand または RDMA over Converged Ethernet (RoCE) デバイスがサーバーにインストールされている。
- サーバーに IP over InfiniBand (IPoIB) が設定され、InfiniBand デバイスに IP アドレスが割り当てられている。
手順
rdma-core
パッケージをインストールします。# dnf install rdma-core
パッケージがすでにインストールされている場合は、
/etc/rdma/modules/rdma.conf
ファイル内のxprtrdma
およびsvcrdma
モジュールのコメントが解除されていることを確認します。# NFS over RDMA client support xprtrdma # NFS over RDMA server support svcrdma
オプション: デフォルトでは、NFS over RDMA はポート 20049 を使用します。別のポートを使用する場合は、
/etc/nfs.conf
ファイルの[nfsd]
セクションでrdma-port
設定を指定します。rdma-port=<port>
firewalld
で NFSoRDMA ポートを開きます。# firewall-cmd --permanent --add-port={20049/tcp,20049/udp} # firewall-cmd --reload
20049 以外のポートを設定する場合は、ポート番号を変更します。
nfs-server
サービスを再起動します。# systemctl restart nfs-server
検証
InfiniBand ハードウェアを搭載したクライアントで、次の手順を実行します。
以下のパッケージをインストールします。
# dnf install nfs-utils rdma-core
エクスポートされた NFS 共有を RDMA 経由でマウントします。
# mount -o rdma server.example.com:/nfs/projects/ /mnt/
デフォルト (20049) 以外のポート番号を設定する場合は、コマンドに
port=<port_number>
を渡します。# mount -o rdma,port=<port_number> server.example.com:/nfs/projects/ /mnt/
rdma
オプションを使用して共有がマウントされたことを確認します。# mount | grep "/mnt" server.example.com:/nfs/projects/ on /mnt type nfs (...,proto=rdma,...)
第5章 InfiniBand サブネットマネージャーの設定
すべての InfiniBand ネットワークでは、ネットワークが機能するために、サブネットマネージャーが実行されている必要があります。これは、2 台のマシンがスイッチなしで直接接続されている場合にも当てはまります。
複数のサブネットマネージャーを使用することもできます。その場合、1 つのサブネットマネージャーはマスターとして、もう 1 つはスレーブとして機能します。スレーブは、マスターサブネットマネージャーに障害が発生した場合に引き継ぎます。
ほとんどの InfiniBand スイッチには、サブネットマネージャーが組み込まれています。ただし、最新のサブネットマネージャーが必要な場合や、より詳細な制御が必要な場合は、Red Hat Enterprise Linux が提供する OpenSM
サブネットマネージャーを使用してください。
詳細は、OpenSM サブネットマネージャーのインストール を参照してください。
第6章 IPoIB の設定
デフォルトでは、InfiniBand は通信にインターネットプロトコル (IP) を使用しません。ただし、IPoIB (IP over InfiniBand) は、InfiniBand Remote Direct Memory Access (RDMA) ネットワーク上に IP ネットワークエミュレーション層を提供します。これにより、変更を加えていない既存のアプリケーションが InfiniBand ネットワーク経由でデータを送信できるようになりますが、アプリケーションが RDMA をネイティブに使用する場合よりもパフォーマンスが低下します。
RHEL 8 以降の Mellanox デバイス (ConnectX-4 以降) は、デフォルトで Enhanced IPoIB モードを使用します (データグラムのみ)。これらのデバイスでは、Connected モードはサポートされていません。
6.1. IPoIB の通信モード
IPoIB デバイスは、Datagram
モードまたは Connected
モードのいずれかで設定可能です。違いは、通信の反対側で IPoIB 層がマシンで開こうとするキューペアのタイプです。
Datagram
モードでは、システムは信頼できない非接続のキューペアを開きます。このモードは、InfiniBand リンク層の Maximum Transmission Unit (MTU) を超えるパッケージには対応していません。IPoIB 層は、データ転送時に IP パケットに 4 バイトの IPoIB ヘッダーを追加します。その結果、IPoIB MTU は InfiniBand リンク層 MTU より 4 バイト少なくなります。一般的な InfiniBand リンク層 MTU は
2048
であるため、Datagram
モードの一般的な IPoIB デバイス MTU は2044
になります。Connected
モードでは、システムは信頼できる接続されたキューペアを開きます。このモードでは、InfiniBand のリンク層の MTU より大きなメッセージを許可します。ホストアダプターがパケットのセグメンテーションと再構築を処理します。その結果、
Connected
モードでは、Infiniband アダプターから送信されるメッセージのサイズに制限がありません。しかし、data
フィールドと TCP/IPheader
フィールドにより、IP パケットには制限があります。このため、Connected
モードの IPoIB MTU は65520
バイトです。Connected
モードではパフォーマンスが向上しますが、より多くのカーネルメモリーを消費します。
システムが Connected
モードを使用するように設定されている場合、InfiniBand スイッチおよびファブリックは Connected
モードでマルチキャストトラフィックを渡すことができないため、システムは Datagram
モードを使用してマルチキャストトラフィックを引き続き送信します。また、ホストが Connected
モードを使用するように設定されていない場合、システムは Datagram
モードにフォールバックします。
インターフェイス上で MTU までのマルチキャストデータを送信するアプリケーションを実行しながら、インターフェイスを Datagram
モードに設定するか、データグラムサイズのパケットに収まるように、パケットの送信サイズに上限を設けるようにアプリケーションを設定してください。
6.2. IPoIB ハードウェアアドレスについて
IPoIB デバイスには、以下の部分で構成される 20
バイトのハードウェアアドレスがあります。
- 最初の 4 バイトはフラグとキューペアの番号です。
次の 8 バイトはサブネットの接頭辞です。
デフォルトのサブネットの接頭辞は
0xfe:80:00:00:00:00:00:00
です。デバイスがサブネットマネージャーに接続すると、デバイスはこの接頭辞を変更して、設定されたサブネットマネージャーと一致させます。- 最後の 8 バイトは、IPoIB デバイスに接続する InfiniBand ポートのグローバル一意識別子 (GUID) です。
最初の 12 バイトは変更される可能性があるため、udev
デバイスマネージャールールでは使用しないでください。
6.3. nmcli コマンドを使用した IPoIB 接続の設定
nmcli
コマンドラインユーティリティーは、CLI を使用して NetworkManager を制御し、ネットワークステータスを報告します。
前提条件
- InfiniBand デバイスがサーバーにインストールされている。
- 対応するカーネルモジュールがロードされている。
手順
InfiniBand 接続を作成して、
Connected
トランスポートモードでmlx4_ib0
インターフェイスを使用し、最大 MTU が65520
バイトになるようにします。# nmcli connection add type infiniband con-name mlx4_ib0 ifname mlx4_ib0 transport-mode Connected mtu 65520
また、
mlx4_ib0
接続のP_Key
インターフェイスとして0x8002
を設定することも可能です。# nmcli connection modify mlx4_ib0 infiniband.p-key 0x8002
IPv4 を設定するには、
mlx4_ib0
接続の静的 IPv4 アドレス、ネットワークマスク、デフォルトゲートウェイ、および DNS サーバーを設定します。# nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv4.addresses 192.0.2.1/24 # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv4.gateway 192.0.2.254 # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv4.dns 192.0.2.253 # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv4.method manual
IPv6 を設定するには、
mlx4_ib0
接続の静的 IPv6 アドレス、ネットワークマスク、デフォルトゲートウェイ、および DNS サーバーを設定します。# nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv6.addresses 2001:db8:1::1/32 # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv6.gateway 2001:db8:1::fffe # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv6.dns 2001:db8:1::fffd # nmcli connection modify mlx4_ib0 ipv6.method manual
mlx4_ib0
接続をアクティブ化するには、以下を実行します。# nmcli connection up mlx4_ib0
6.4. network RHEL システムロールを使用した IPoIB 接続の設定
network
RHEL システムロールを使用して、IP over InfiniBand (IPoIB) デバイスの NetworkManager 接続プロファイルをリモートで作成できます。たとえば、Ansible Playbook を実行して、次の設定で mlx4_ib0
インターフェイスの InfiniBand 接続をリモートで追加します。
-
IPoIB デバイス -
mlx4_ib0.8002
-
パーティションキー
p_key
-0x8002
-
静的
IPv4
アドレス -192.0.2.1
と/24
サブネットマスク -
静的
IPv6
アドレス -2001:db8:1::1
と/64
サブネットマスク
Ansible コントロールノードで以下の手順を実行します。
前提条件
- 制御ノードと管理ノードを準備している
- 管理対象ノードで Playbook を実行できるユーザーとしてコントロールノードにログインしている。
-
管理対象ノードへの接続に使用するアカウントには、そのノードに対する
sudo
権限がある。 -
mlx4_ib0
という名前の InfiniBand デバイスが管理対象ノードにインストールされている。 - 管理対象ノードが NetworkManager を使用してネットワークを設定している。
手順
次の内容を含む Playbook ファイル (例:
~/playbook.yml
) を作成します。--- - name: Configure the network hosts: managed-node-01.example.com tasks: - name: Configure IPoIB ansible.builtin.include_role: name: rhel-system-roles.network vars: network_connections: # InfiniBand connection mlx4_ib0 - name: mlx4_ib0 interface_name: mlx4_ib0 type: infiniband # IPoIB device mlx4_ib0.8002 on top of mlx4_ib0 - name: mlx4_ib0.8002 type: infiniband autoconnect: yes infiniband: p_key: 0x8002 transport_mode: datagram parent: mlx4_ib0 ip: address: - 192.0.2.1/24 - 2001:db8:1::1/64 state: up
この例のように
p_key
パラメーターを設定する場合は、IPoIB デバイスでinterface_name
パラメーターを設定しないでください。Playbook の構文を検証します。
$ ansible-playbook --syntax-check ~/playbook.yml
このコマンドは構文を検証するだけであり、有効だが不適切な設定から保護するものではないことに注意してください。
Playbook を実行します。
$ ansible-playbook ~/playbook.yml
検証
managed-node-01.example.com
ホストで、mlx4_ib0.8002
デバイスの IP 設定を表示します。# ip address show mlx4_ib0.8002 ... inet 192.0.2.1/24 brd 192.0.2.255 scope global noprefixroute ib0.8002 valid_lft forever preferred_lft forever inet6 2001:db8:1::1/64 scope link tentative noprefixroute valid_lft forever preferred_lft forever
mlx4_ib0.8002
デバイスのパーティションキー (P_Key) を表示します。# cat /sys/class/net/mlx4_ib0.8002/pkey 0x8002
mlx4_ib0.8002
デバイスのモードを表示します。# cat /sys/class/net/mlx4_ib0.8002/mode datagram
関連情報
-
/usr/share/ansible/roles/rhel-system-roles.network/README.md
ファイル -
/usr/share/doc/rhel-system-roles/network/
ディレクトリー
6.5. nm-connection-editor を使用した IPoIB 接続の設定
nmcli-connection-editor
アプリケーションは、管理コンソールを使用して、NetworkManager によって保存されたネットワーク接続を設定および管理します。
前提条件
- InfiniBand デバイスがサーバーに取り付けられている。
- 対応するカーネルモジュールがロードされている。
-
nm-connection-editor
パッケージがインストールされている。
手順
コマンドを入力します。
$ nm-connection-editor
- + ボタンをクリックして、新しい接続を追加します。
-
InfiniBand
接続タイプを選択し、Create をクリックします。 InfiniBand
タブで以下を行います。- 必要に応じて、接続名を変更します。
- トランスポートモードを選択します。
- デバイスを選択します。
- 必要に応じて MTU を設定します。
-
IPv4 Settings
タブで、IPv4 設定を設定します。たとえば、静的な IPv4 アドレス、ネットワークマスク、デフォルトゲートウェイ、および DNS サーバーを設定します。 -
IPv6 Settings
タブで、IPv6 設定を設定します。たとえば、静的な IPv6 アドレス、ネットワークマスク、デフォルトゲートウェイ、および DNS サーバーを設定します。 - Save をクリックして、チーム接続を保存します。
-
nm-connection-editor
を閉じます。 P_Key
インターフェイスを設定することができます。この設定はnm-connection-editor
では利用できないため、コマンドラインでこのパラメーターを設定する必要があります。たとえば、
mlx4_ib0
接続のP_Key
インターフェイスとして0x8002
を設定するには、以下のコマンドを実行します。# nmcli connection modify mlx4_ib0 infiniband.p-key 0x8002
第7章 InfiniBand ネットワークのテスト
7.1. 初期の InfiniBand RDMA 操作のテスト
InfiniBand は、Remote Direct Memory Access (RDMA) に低レイテンシーと高パフォーマンスを提供します。
InfiniBand とは別に、Internet Wide-area Remote Protocol (iWARP)、RDMA over Converged Ethernet (RoCE)、または InfiniBand over Ethernet (IBoE) デバイスなどの IP ベースのデバイスを使用する場合は、次を参照してください。
前提条件
-
rdma
サービスが設定されている。 -
libibverbs-utils
パッケージとinfiniband-diags
パッケージがインストールされている。
手順
利用可能な InfiniBand デバイスのリストを表示します。
# ibv_devices device node GUID ------ ---------------- mlx4_0 0002c903003178f0 mlx4_1 f4521403007bcba0
mlx4_1
デバイスの情報を表示します。# ibv_devinfo -d mlx4_1 hca_id: mlx4_1 transport: InfiniBand (0) fw_ver: 2.30.8000 node_guid: f452:1403:007b:cba0 sys_image_guid: f452:1403:007b:cba3 vendor_id: 0x02c9 vendor_part_id: 4099 hw_ver: 0x0 board_id: MT_1090120019 phys_port_cnt: 2 port: 1 state: PORT_ACTIVE (4) max_mtu: 4096 (5) active_mtu: 2048 (4) sm_lid: 2 port_lid: 2 port_lmc: 0x01 link_layer: InfiniBand port: 2 state: PORT_ACTIVE (4) max_mtu: 4096 (5) active_mtu: 4096 (5) sm_lid: 0 port_lid: 0 port_lmc: 0x00 link_layer: Ethernet
mlx4_1
デバイスのステータスを表示します。# ibstat mlx4_1 CA 'mlx4_1' CA type: MT4099 Number of ports: 2 Firmware version: 2.30.8000 Hardware version: 0 Node GUID: 0xf4521403007bcba0 System image GUID: 0xf4521403007bcba3 Port 1: State: Active Physical state: LinkUp Rate: 56 Base lid: 2 LMC: 1 SM lid: 2 Capability mask: 0x0251486a Port GUID: 0xf4521403007bcba1 Link layer: InfiniBand Port 2: State: Active Physical state: LinkUp Rate: 40 Base lid: 0 LMC: 0 SM lid: 0 Capability mask: 0x04010000 Port GUID: 0xf65214fffe7bcba2 Link layer: Ethernet
ibping
ユーティリティーは、パラメーターを設定することで InfiniBand アドレスに ping を実行し、クライアント/サーバーとして動作します。ホスト上の
-C
InfiniBand 認証局 (CA) 名を使用して、ポート番号-P
でサーバーモード-S
を開始します。# ibping -S -C mlx4_1 -P 1
クライアントモードを開始し、ホストで
-C
InfiniBand 認証局 (CA) 名と-L
ローカル識別子 (LID) を使用して、ポート番号-P
でいくつかのパケット-c
を送信します。# ibping -c 50 -C mlx4_0 -P 1 -L 2
関連情報
-
ibping(8)
man ページ
7.2. ping ユーティリティーを使用した IPoIB のテスト
IP over InfiniBand (IPoIB) を設定したら、ping
ユーティリティーを使用して ICMP パケットを送信し、IPoIB 接続をテストします。
前提条件
- 2 台の RDMA ホストが、同じ InfiniBand ファブリックに RDMA ポートで接続されている。
- 両方のホストの IPoIB インターフェイスが、同じサブネット内の IP アドレスで設定されている。
手順
ping
ユーティリティーを使用して、5 つの ICMP パケットをリモートホストの InfiniBand アダプターに送信します。# ping -c5 192.0.2.1
7.3. IPoIB の設定後に iperf3 を使用して RDMA ネットワークをテストする
次の例では、大きなバッファーサイズを使用して、60 秒のテストを実行し、最大スループットを測定します。iperf3
ユーティリティーを使用して 2 つのホスト間の帯域幅とレイテンシーを十分に使用します。
前提条件
- 両方のホストで IPoIB を設定している。
手順
iperf3
をシステム上のサーバーとして実行するには、時間の間隔を定義して、定期的な帯域幅の更新-i
を指定し、クライアント接続の応答を待機するサーバー-s
としてリッスンします。# iperf3 -i 5 -s
iperf3
を別のシステムでクライアントとして実行するには、時間の間隔を定義して、定期的な帯域幅の更新-i
を指定し、-t
秒使用して IP アドレス192.168.2.2
のリスニングサーバー-c
に接続します。# iperf3 -i 5 -t 60 -c 192.168.2.2
以下のコマンドを使用します。
サーバーとして動作するシステムでテスト結果を表示します。
# iperf3 -i 10 -s ----------------------------------------------------------- Server listening on 5201 ----------------------------------------------------------- Accepted connection from 192.168.2.3, port 22216 [5] local 192.168.2.2 port 5201 connected to 192.168.2.3 port 22218 [ID] Interval Transfer Bandwidth [5] 0.00-10.00 sec 17.5 GBytes 15.0 Gbits/sec [5] 10.00-20.00 sec 17.6 GBytes 15.2 Gbits/sec [5] 20.00-30.00 sec 18.4 GBytes 15.8 Gbits/sec [5] 30.00-40.00 sec 18.0 GBytes 15.5 Gbits/sec [5] 40.00-50.00 sec 17.5 GBytes 15.1 Gbits/sec [5] 50.00-60.00 sec 18.1 GBytes 15.5 Gbits/sec [5] 60.00-60.04 sec 82.2 MBytes 17.3 Gbits/sec - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - [ID] Interval Transfer Bandwidth [5] 0.00-60.04 sec 0.00 Bytes 0.00 bits/sec sender [5] 0.00-60.04 sec 107 GBytes 15.3 Gbits/sec receiver
クライアントとして動作するシステムでテスト結果を表示します。
# iperf3 -i 1 -t 60 -c 192.168.2.2 Connecting to host 192.168.2.2, port 5201 [4] local 192.168.2.3 port 22218 connected to 192.168.2.2 port 5201 [ID] Interval Transfer Bandwidth Retr Cwnd [4] 0.00-10.00 sec 17.6 GBytes 15.1 Gbits/sec 0 6.01 MBytes [4] 10.00-20.00 sec 17.6 GBytes 15.1 Gbits/sec 0 6.01 MBytes [4] 20.00-30.00 sec 18.4 GBytes 15.8 Gbits/sec 0 6.01 MBytes [4] 30.00-40.00 sec 18.0 GBytes 15.5 Gbits/sec 0 6.01 MBytes [4] 40.00-50.00 sec 17.5 GBytes 15.1 Gbits/sec 0 6.01 MBytes [4] 50.00-60.00 sec 18.1 GBytes 15.5 Gbits/sec 0 6.01 MBytes - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - [ID] Interval Transfer Bandwidth Retr [4] 0.00-60.00 sec 107 GBytes 15.4 Gbits/sec 0 sender [4] 0.00-60.00 sec 107 GBytes 15.4 Gbits/sec receiver
関連情報
-
iperf3
man ページ